―不登校(※1)への対応は。
「各学校は急増する不登校の児童・生徒への対応に追われ、手厚い支援ができない状況になっており、深刻だ。教育委員会として不登校が増えている根本原因の究明にも取り組む必要がある。学校の問題や家庭の問題、児童・生徒の心の問題の分析などを進める」
―児童・生徒の心の問題の分析をどのように進めますか。
「例えば、発達障害の分析について専門家の協力を得ながら進めたい。最近、生まれつきの発達障害とされる子供が急増しているが、私はその中に後天的な要因による愛着障害の子供が相当数含まれていると考えている」
―愛着障害とはどのようなものですか。
「愛着障害とは、乳幼児期に親などの養育者との愛着がうまく形成されなかったために、子供の情緒や人との関わり方に問題が生じる状態だ。虐待をはじめ、養育者との離別などが原因で起こり、愛着形成から得られる自尊心や自立心、社会性が育たずに成長することを言う。愛着障害のある人は対人関係において不安定で依存的、拒絶などの恐怖を感じやすく、自己否定と自己高揚の両面が表出し、『自分なんて生まれなければよかった』と自分を全面的に否定することも少なくない。愛着障害は養育環境による後天的なものであり、生まれつきの発達障害とは違うが、発達障害のADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)に似ており、混同されるケースが多い。愛着障害と関連づけて考えなければ、発達障害の急増を説明しにくい。しかし、関連性を示す統計データは現段階においてなく、今後の研究課題だ」
―いじめ(※2)の対応は。
「今の西宮市内のいじめの認知件数は少ないが、本当にいじめが発生していないのか、あるいは、本当はいじめだが、いじめとして認識されていないケースが多いのかはよくわからない。いじめに関してはいじめられた子供だけでなく、いじめた子供への支援やケアも必要だと考えている。現状において、いじめた子供への支援やケアはほとんどない。これら『加害者』と呼ばれる子供に対しては通常、支援やケアではなく、道徳的な指導がされる。先生方から『相手を傷つけてはいけない』とか『そういう行為は社会生活では認められない』とか『反省しなさい』とか『二度とやってはいけない』などと言われる。けれども、ある程度分別がある子供であれば、やっていけないことぐらいわかっている。それをあえてやるというところに、その子の心の問題があると思う」
―具体的にはどのようなことですか。
「学校生活への不満や友達との人間関係、家庭環境などの問題でストレスを発散させないとやりきれないような状態であるのかもしれない。だから、いじめた子供にも支援やケアが必要だと思う。例えば、スクールカウンセラーからの心のケアなどを進めたい。そういう発生因子を見つけ出し、解消させたい。また、学校現場にいじめを許容するような雰囲気が醸成されていないかという検証も必要だ。つまり、児童・生徒の間で多少問題があったり、他人に迷惑をかけたりする子供に対して『あいつなら、いじめられても仕方ない』という空気が漂っていれば、それがいじめを助長したり、問題を深刻化させることになりかねない」
(※1)西宮市内の不登校児童・生徒数は令和3年度で小学生421人、中学生637人の計1058人、4年度は小学生443人、中学生795人の計1238人、5年度は小学生541人、中学生786人の計1327人と毎年増えています。
(※2)西宮市内のいじめの認知件数は令和3年度、小学校等で387件、中学校等で175件の562件、4年度は小学校等で642件、中学校等で428件の計1070件、5年度は小学校等で1070件、中学校等で547件の計1617件と毎年増えています。