私は令和4年11月、武庫川女子大学栄養科学研究所所長の福尾惠介教授に65歳以上の高齢者の健康についてインタビューをしました。福尾教授はコロナ禍で外出を自粛する高齢者の多くで食欲不振による低栄養から気づかないうちに体重が減少し、フレイルが進行している可能性が高いことを指摘。「毎日、体重を測定し、健康に深刻な影響をもたらす低栄養を早く見つけてほしい」と呼びかけています。
フレイルは健常な状態と要介護状態との中間の状態として、日本老年医学会が平成26年に提唱した概念です。①6か月で2キロ以上の意図しない体重減少②筋力の低下(握力が男性で28キロ未満、女性で18キロ未満)③疲れやすい④歩行速度の低下(通常歩行速度が毎秒1メートル未満)⑤身体活動量の低下―の5項目のうち3項目以上が該当すると、フレイルと判定されます。
福尾教授は「『痩せると健康になる』と一般的に信じられているが、高齢者の場合は違う。痩せれば、筋肉量が低下してフレイルや寝たきりにつながり、死亡リスクが高まる」と強調。「過去の調査から西宮市の在宅高齢者の30~40%は低栄養のリスクがあることがわかっている」と話しました。
特に、1人暮らしの高齢男性において外出自粛による運動量の低下や精神状態の悪化から食欲の低下が目立つといいます。「食欲の低下で低栄養に陥っても本人は気づかないことが多い。このため、低栄養による筋肉量の減少と免疫力の低下が知らないうちに進行してしまう」と話しました。
「家庭で唯一、低栄養を発見する方法は毎日の体重測定だ」と指摘したうえで、①魚類②肉類③卵④牛乳・乳製品⑤大豆・大豆製品⑥イモ類⑦油脂類⑧緑黄色野菜⑨果物⑩海藻類―の10品目をバランス良くとることをアドバイスしました。
そのうえで、フレイル予防の4つの柱として①栄養(バランスの良い食事。しっかり食べる)②身体活動(運動習慣の定着。10分多く体を動かす)③お口の健康(口腔ケア、定期健診、口腔体操)④社会参加(趣味・ボランティア・就労、地域の人との交流)―の大切さを強調しました。
西宮市は令和2年、武庫川女子大学栄養科学研究所と包括連携協定を結び、在宅高齢者が新型コロナウイルスとの共存下で抱えるさまざまな栄養に関する課題などを明らかにする事業を進めています。
福尾惠介教授インタビューの主な一問一答は以下の通り。
―コロナ禍が高齢者の健康にどのような悪影響を与えていますか。
「コロナ禍に伴う外出自粛が高齢者に悪影響を与えていると考えられる。例えば、運動不足による筋肉量の低下だ。コロナ禍前の調査で西宮市の高齢者の約40%が加齢などにより全身の筋肉量が低下するサルコペニアか、サルコペニアの疑いがある状態であることがわかっている。サルコペニアはフレイルにつながる。コロナ禍でその状態が悪化していることが予想される」
―それは深刻ですね。
「こうした問題は今後、顕在化しそうだ。転倒などの老年症候群や要介護の高齢者が増える可能性がある。健康診断の受診率やかかりつけ医の受診率が低下しており、高齢者が持病を悪化させるケースが増えることを懸念している」
―外出自粛の悪影響は多方面に及びそうですね。
「カルシウムの吸収を助け、骨粗しょう症を防ぐビタミンDの不足も心配している。ビタミンDは日光を浴びることで体内で生成されるが、室内ばかりにいれば、生成が阻害される。その一方で日光の浴び過ぎは皮膚がんなどのリスクを高めるので注意が必要だ」
福尾惠介氏(ふくお・けいすけ)の略歴 大阪府生まれ。鳥取大学医学部卒業。大阪大学大学院医学系研究科講師(加齢医学講座)、同大大学院助教授などを経て平成15年から武庫川女子大学生活環境学部(現・食物栄養科学部)教授。24年から同大栄養科学研究所所長。研究分野は老年医学と臨床栄養学。医学博士。
武庫川女子大学栄養科学研究所 1人暮らしの高齢者に対する栄養支援活動などを進めた武庫川女子大学高齢者栄養科学研究センターを母体として平成24年に同大学内に設立。高齢者栄養科学部門と食品栄養部門、栄養支援科学部門、食育・人材育成研究部門、認知症予防研究部門の5部門で構成する。基本理念・目的は将来の地域医療を支える人材育成と先進的栄養学的研究、地域社会への貢献。