―「特別支援教育をはじめとする子供一人一人に寄り添う教育」を掲げていますが、これはどのようなもので、どのように実施する考えですか。
「子供が学校や教師に合わせる従来型の教育から、学校や教師が子供に合わせる教育に180度の転換をする必要がある。そのため、児童・生徒1人1人を多面的に理解することで誰1人取り残さず、どの子もしっかり学び、成長できる環境を整えることが重要だ。横浜市立中学校の校長を務めた経験を踏まえて言えば、児童・生徒についての理解は現場の先生方の力量に左右される面が大きい。また、良い意味でも悪い意味でも目立つ子供が注目され、目立たない子供への理解が進まないこともある。勉強ができる子供でも心に不安を抱えているケースは多い。自分から悩みを言い出せない子供に早く気づき、スクールカウンセラーにつなげるなどの体制づくりが必要だ」
―どのようにして子供への理解を深めるのですか。
「子供を知るデータとしては①全国の中学3年生と小学6年生を対象に実施される全国学力・学習状況調査の結果②教育委員会と武庫川女子大学が共同開発した児童・生徒の心理状態チェックシステム「こころん・サーモ」の結果③GIGAスクール構想で児童・生徒に1人1台貸与されているタブレット端末に蓄積された学習状況④定期テストや小テストの結果⑤出欠状況―などがある。全国学力・学習状況調査では『学校が好きか』や『決められた時間に寝ているか』などのアンケートがあり、子供たちの素直な思いや生活状況が分かる。家族構成も重要なデータであり、妹を理解することで兄についての理解が深まることもある」
―どのように進める考えですか。
「学校では子供たちのデータがばらばらに保管され、有効活用されていないケースが多い。これらのデータを組み合わせて、ICTを活用することによって、先生方の力量に頼らなくても子供たちへの理解が深まれば、授業や個別指導に大きな効果がある。先生方が子供1人1人について必要なデータをわかりやすく一覧できる環境を教育委員会として整えていきたい」
―インクルーシブ教育(※)をどのように進めますか。
「子供たちにとって多様な人がいることを知り、助け合い、支え合って生きることを身につける大切な取り組みだ。ただ、画一的に全て一緒に学習すればいいという話ではない。例えば、知的障害児に難しい数学の授業に出席させれば、その子にとって大切な学びの時間を浪費させることになりかねない。一緒にできる活動はできる限り一緒にやるという臨機応変な対応が必要だ」
(※)インクルーシブ教育とは 障害の有無などの違いを超えて、全ての子供が同じ環境で一緒に学ぶ教育。