私は6月、市の諮問機関である環境影響評価専門委員会の武田義明会長(神戸大学名誉教授)に令和3年度に新規事業化された名神湾岸連絡線についてインタビューをしました。武田会長は連絡線の環境への影響について「不安がある」と指摘し、事業者が工事中や供用後に実施する事後監視調査のデータについて市も検証することを求めました。
専門委員会は市から連絡線の環境影響評価準備書に対する意見について諮問され、令和2年10月、市に答申しました。答申では「最低限の環境基準等を満たすという視点でしか対策が示されていない」として国に環境保全の対策強化を求めました。市は答申内容をそのまま反映した意見書を兵庫県に提出しました。
インタビューの中で、武田会長は連絡線が環境に与える影響について「不安がある。騒音や振動、低周波音、景観への影響が大きい。事業で一番問題になるのは供用後の騒音と振動だ。周辺の住民生活に影響するのでは」と懸念を表明しました。
武田会長は環境影響評価で示された計画交通量1日当たり1万9500台について「算定根拠がわからない。国は『連絡線の整備で周辺の道路の渋滞が緩和される』と言っているが、本当かどうかのデータの提示もない。事業の必要性の根幹の部分があいまいだ。住民に納得してもらう努力も欠けている」と述べ、国の姿勢を批判しました。
武田会長は「環境影響評価はあくまで予測なので、その通りになるとは限らない」と述べ、環境影響評価書に記載された事後監視調査の重要性を指摘しました。評価書では大気汚染や騒音、低周波音などについて工事中や供用後に行う事後監視調査の計画が盛り込まれています。武田会長は事後監視調査のデータについて「県が検証するが、市も専門家の意見を聴いて独自に検証すべきだ」と述べました。
武田義明会長インタビューの主な一問一答は以下の通り。
ーー国は名神湾岸連絡線について令和3年度予算に1億円の事業費を計上して新規事業化しました。今後3年程度かけて調査・測量・設計を行う予定です。この事業に不安な点はありますか。
「不安がある。騒音や振動、低周波音、景観への影響が大きい。事業で一番問題になるのは供用後の騒音と振動だ。騒音については集合住宅の上層階への影響が心配だ。音は上へと逃げていくので、そこをうまく抑えられればいいのだが…。大型車の通行による振動も気になる。それに付随して出てくる低周波音も心配だ」
■PM2・5への対応を
ーー連絡線の環境影響評価書についてのお考えは。
「計画交通量の算定根拠がわからない。国は『連絡線の整備で周辺の道路の渋滞が緩和される』と言っているが、本当かどうかのデータの提示もない。事業の必要性の根幹の部分があいまいだ」「評価書では、微小粒子状物質『PM2・5』について『予測方法等が確立されていない』として言及を避けている。これは健康被害、特にがんのリスクが指摘されている大きな問題なので、突っ込んで書いてもらわなければいけない。今は予測方法がないにしても、確立される可能性があるのだから、『確立されれば、予測する』との方針を示すべきだ」
■住民が納得する形で進めよ
ーー国やこれから決定される事業者への要望は。
「住民が納得する形で進めてほしい。この地域は今でも国道43号と阪神高速3号神戸線が通っており、良い環境ではない。これ以上、環境が悪化すると、住民にとってしんどい」「環境影響評価はあくまで予測なので、その通りになるとは限らない。不測の事態や予測を大きく上回る事態が発生する可能性がある。環境影響評価では、通行車両の速度を時速60キロで計算しており、それを上回る速度で走った場合の騒音や振動などの影響が計算されていない。特に、橋げたのジョイント部分はガタンガタンと大きな音がする。国は『規制速度が決まっているから』『規制速度を守らせます』などと言っているだけだ」
■異常時には地元にすぐ連絡を
ーー評価書では、大気汚染や騒音、低周波音などについて工事中や供用後に行う事後監視調査の計画が盛り込まれています。
「工事中と供用後の環境への影響をしっかり監視しなければいけない。事業者がそのデータを県に報告することになるが、市でも検証して県に意見を言えるような形になればと思う」
ーー市のどこで事後監視調査のデータを検証するのですか。
「環境影響評価専門委員会のメンバーのような専門家ならできる。ただ、データを検証したうえで、県に意見を提出する仕組みを整備する必要がある。事業者は県に毎年1回、事後監視評価報告書を提出することになるが、異常があった時はすぐ地元に知らせて、対応できる体制づくりが必要だ。国と事業者、県の間だけのやりとりで終わせてはいけない」
■専門家の積極活用を
ーー事業者が今後、事業の各段階で市民に対する説明会を開くことになると思いますが、専門知識のない市民には説明内容を検証することができません。市は事業者の説明を専門的な知見によって検証して公表する仕組みをつくるべきでは。
「説明会には市の職員も出席して疑問点を解明する必要がある。市の職員がわからなければ、専門家に聞いてほしい。私たちは積極的に対応する姿勢をもっている」
名神湾岸連絡線とは 名神高速道路と阪神高速5号湾岸線をつなぐために計画されている延長約2・7キロの自動車専用道路。片側1車線の計2車線道路で、名神高速、阪神高速3号神戸線の大阪方面、湾岸線の大阪、神戸の両方面の4か所で接続し、西宮浜に出入り口を設置します。全体事業費は約1050億円。
環境影響評価専門委員会とは 市の諮問機関で、国又は兵庫県が定める環境影響評価制度に基づき、県知事から市長に意見を求められた場合に、公害の防止及び自然環境の保全に関し、専門的及び技術的な事項を調査・審議します。学識経験者10人で構成します。